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カエル少年合唱団 [雑感]

小さい頃、僕はいじめられていた。

 そのことで泣いたり、深く傷ついたりはしなかったが、強がっていたが、確かにいじめられていたように思う。

 僕は怒っていた。謂われない迫害を受けて憤慨していた。そのことは同時に僕の自尊心を大きく満たすことにもなった。

反抗する英雄。闘士。孤高の超越者。

 そんな僕のやることなすこと全て監視するネットワークが出来ていたみたいで、ある日、家の前でローラースケートの練習をしたら、翌日には「光GENJI」というあだ名を頂戴した。

 ローラースケートはすぐに止めてしまったが、あだ名のほうはしっかり定着して、

「ひかる、ひかる、頭が光る、電気が光る」

 などと囃したてるようになった。学級総出の大合唱である。昭和流行り歌のようにしつこく歌われた。

 あの頃も今も僕の髪はフサフサしているし、蛍光灯は光ってナンボのものだ。「なるほど語呂はいいな」と感心しつつも、

「うるさい!」

 と言うと、

「お前のことじゃねーよ。なにムキになってんだよ」

「自分で認めてるってことじゃないの?」

 とか言ってくる。

「うるさいからうるさいと言ったまでだ」

 この経験が僕をさらなる精神的高みへと押し上げることとなった。


ヴィトゲンシュタインはあるとき、「動物は考えないから話さないのではなく、単に話さないのだ」と言ったが、裏を返せば、こいつらは―「ひかるひかる電気が光る」などと歌って、いい気になっているらしいこの一群の小動物どもは―何か考えがあって発話しているのではなく、機械的に、単に口をパクパクさせ、喉を震わせているに過ぎないのだ。その意味で、カエルの合唱以下だ。


 この新たな認識が、子供の僕をこの上なく愉快にさせた。そうだ、僕は精神的に貴族だ。畜群のなかにあって独り超然と誇り高く雄雄しく立つ、真のエリートなのだ。

 思うに、社会というものは例外なく愚劣で凡庸なものであり、この桎梏を超出した一握りの特権的な個人のみが、至高の生を歩むことができるのだ。

 このような思想を中学に入るまでに、僕はすでに抱いていた。


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